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知性100人が韓日海底トンネルを語る 野澤太三 |
“知性100人が韓日海底トンネルを語る”は、韓国のソウルにある世界平和道路財団が2021年3月31日に発行した単行本です。この本には日韓トンネルに関する各界各層の人士108名(韓国91名、日本13名、米国4名)が登場しています。この本の発行人である世界平和道路財団のソン・カンソク韓国会長は発刊の辞のなかで「この本に登場する知性100人は、これまで雑誌“ピースロード”に論文、寄稿、インタビューなどを通し、韓日トンネルおよびそれを含む概念であるピースロードに関連し提言した方々である」と述べています。 この本に登場した日本13名のなかに当研究会の野沢太三会長が入っており、単行本の265ページから274ページにかけて「アジアとヨーロッパを結ぶ平和のトンネル」という表題でレポートが載っています。このレポートは、野澤会長がこれまで日韓トンネルに関連して語り、あるいは執筆したものを発行者が編集して作成したとみられます。 レポートは全て韓国語ですが、当研究会(特定非営利活動法人日韓トンネル研究会)が独自で日本語訳したもの以下に掲載します。なお、レポートに載った写真、図、表は韓国語の原文をご覧ください。また、前述108名の名簿の日本語訳を掲載します。 |
アジアとヨーロッパを結ぶ「平和のトンネル」 野澤太三(日韓トンネル研究会会長、元法務大臣、工学博士) 韓日トンネルは韓日関係の新しい未来を開き、東アジアの提携を強化する象徴的なプロジェクトである。その観点からこのプロジェクトは必ず推進する必要がある。2010年10月に韓日両国の知識人26名が発表した「韓日新時代共同プロジェクト報告書」は「海底トンネル推進」という項目で、その必要性を力説している。報告書では両国の政府に21個の課題を提示しているが、韓日関係の改善のため提案されたハードウェアー部門は韓日トンネルのみという点が注目される。 韓日トンネルが実現されるには、韓日両国の国民がこのプロジェクトについて理解の幅を広げることが何より重要である。したがって、両国の多くの方々が心を開き、互いに交流を広げていくことはもちろん、このプロジェクトについて賛成する人たちを拡散させることで互いの連結の輪を広げていくことが切実な課題である。 ユーロトンネルは、英国とフランスの両国民が欧州連合(EU)という枠組みのなかで、今後二度と戦争はしない、という制度的な仕組みが作られた段階で初めて首脳同士が握手でき、ユーロトンネルが建設され、EUはさらに活気を帯びることになった。そのような観点から韓日両国も、経済だけでなくヨーロッパ議会や北大西洋条約機構(NATO)のような政治、安全保障面で、より堅固な枠組みをつくり、英仏関係のレベルまで引き上げていく必要がある。そうなれば韓日トンネルの建設も可能となり、東アジア共同体形成も期待できるのである。 両国国民の心の残滓解消が優先 ユーロトンネルが建設されるまでには約200年かかった。韓日トンネルは20世紀の中盤から建設の必要性が提起されたこともあったが、民間主導で韓日両国が関心を持ち始めたのは1980年代に入ってからであった。1990年にはノテウ(盧泰愚)大統領が、日本の国会演説で韓日トンネルの必要性を強調した。韓日両国の首脳は、その後、この問題について互いに言及した。しかし両国間には歴史的あるいは国民情緒上で残滓が残っているため、韓日トンネルが実現するには、両国の各界各層が互いに心を開き交流することが重要だと思う。 韓日トンネル建設について、これまで多くの論議があったが、まだそれでは十分ではない。この巨大プロジェクトを実現させるには、今、基本に戻り各国の海底トンネル建設の先例や実例を学ぶことはもちろん、今後の技術的可能性と経済的展望を明らかにしなければならない。それらの土台の上に、韓日両国の国民の理解と賛同を引き出さねばならない。そのためには韓日両国の専門研究者と関連団体が参加するなかで技術的、経済的、社会的次元で海底トンネル建設の必要性を分析し、韓日トンネルが両国に及ぼす展望を正確に公報することがまず必要である。 韓日両国の間にトンネルが完成すれば、人や貨物、車両の交流が活発になる。さらに船や飛行機に乗るよりトンネルを利用するほうが早く且つ安価に往来できれば、両国の交流は飛躍的に拡大することは間違いない。青函トンネルやユーロトンネルを見ても、荷物や貨物を運ぶ場合、船よりも早く飛行機よりも運賃が安いことが明らかになっている。人の移動という面では、トンネルを中心に500km程度の地点までは、どの交通手段よりも最も大きな効力を発生させることが明らかになっている。 現在は韓日両国のトンネルに極限されるが、将来は北朝鮮を経由し中国とも結ばれるほかないのである。したがって、物流面でも飛行機よりも大量に運送することが可能で、かつ安価に貨物を送ることができる。また船よりも早く送ることができ、トンネルの輸送は非常に効率的だと判断される。韓日トンネルは物流が主軸となり、そこに車両と人的交流が伴うものとみることができる。 起点は福岡、終点は釜山 トンネル案をどうするかについても推し量る必要がある。もちろん鉄道や道路、リニアモーターカーなど選択肢はいろいろあるが、実際に実現可能な案を立てなければならない。青函トンネルやユーロトンネルで、すでに経験したように、鉄道トンネルが適切であり、現実的には日本の新幹線と韓国のKTXが相互に運行するトンネルになるものとみられる。リニアモーターカーは高速走行や傾斜が著しい区間で走行することも可能であり、発想も優れているが、まだ実験の段階に留まっており、海底トンネルに適合するか否かは未知数である。 道路トンネルとして活用する研究も重ねてきたが10kmから15kmごとに排気用の人工島が必要で、水深が150mということを考えると少し無理がある。また運転上の心理的な問題まで考えると、自由走行は困難とみられる。道路としての機能はシャトル列車により自動車を運送すれば十分に成り立つため、道路の代替機能は大部分実現できる。 韓日トンネルは人と貨物の両方全ての交通需要に対応できることが重要であり、ユーロトンネルでその効果が実証されたカートレイン方式のシャトル列車をトンネル部分に走らせ、道路機能を兼ね備えた鉄道トンネルが現実的だと考えられる。 路線の選定はトンネルの建設費を具体的に策定し、今後どのように運用するかをという計画を立てる上で最も重要な課題である。トンネルの始点や終点は、経済的にも発達し人口の配置が最も優れた都市を選択する必要がある。路線は海底を通過するという難問題を克服するため、建設と保守を考慮して選定しなければならない。特に海底部は最大距離が短く、水深が浅いところを選定することが重要である。 韓日トンネルの日本側の起点は唐津になっているが、実際の路線としてみると福岡が始点となる。途中に壱岐、対馬、巨済島を経由し、韓国側の終点・起点は釜山である。起点・終点は鉄道や高速道路、空港、港湾など両国の既存インフラを最大限に活用できるところにならなければならない。そのため、ヤードと呼ばれる積み替え基地をトンネル坑口付近に設置し、車両の荷役が可能で、貨物を取り扱う発着線や荷役線、待避線などを確保し、荷役が迅速になされるようにしなければならない。高速列車と低速列車を分離し、列車運行の効率化を図る必要もある。 路線の縦断を決める大きな要素はトンネルの傾斜度と海底の地形である。トンネルの傾斜度は、新幹線と貨物列車の運行を考慮すると12~15‰に選定され、速度や牽引定数が低下しないよう配慮する。トンネルの上端から海底までの地層の厚さ(土被り)は、山岳工法による掘削の可能性とトンネルの安全性を確保するため100mは必要である。また、壱岐、対馬、コジェ(巨済)島、の各駅は全て地上駅とし、施工基地や車両基地として利用できるようにする。 日本の青函トンネルは複線断面で、大断面トンネル一本に往復軌道が敷かれている。これは山岳工法を前提にして主に薬液注入作業の効率化を考慮し、ひとつに集約したためである。一方、ユーロトンネルは単線並列型で比較的小断面の単線トンネル2本を掘り、双方全て往復できるようになっている。トンネルの途中には一方の単線からもう一方側の単線に列車を入れ替えるシーサスクロッシングがあり、保守やトンネル内の火災発生など、万一の事故に対応することもできる。韓日トンネルの場合、水深が深く、水圧も高いので、トンネルの掘削や保守面で小断面が有利で、列車がすれ違う時の安全性の確保のため、ユーロトンネル式の単線並列型が適合すると考えられる。断面の形状は、地質の性質と状態や工事費用なども考慮して決められることになる。 韓日トンネルの最深部は対馬と韓国内だの海峡であり、水深は大方160mから230m程度である。青函トンネルやユーロトンネルに比べて相当深い。施工法はトンネルボーリングマシン(TBM)工法を中心としたシールド工法の高速掘削が必要である。もちろん一部は山岳工法、非常に浅いところは部分的に沈埋工法も検討するなど、3種類の工法が採択されるとみている。掘削期間は着工後10年とみている。工法の選定には、何よりも海底トンネルの建設の可能性が最も高く、安全に施工できることを優先し、併せて利用効果を考慮して施工することが重要である。 総建設費10兆円、両国共同事業として推進 韓日トンネルの建設費用は、約10兆円とみている。韓日トンネルの建設を実現するには、まず第一に、建設に必要な技術的問題を具体的に推定し、収支採算が合う運営構造を構築する必要がある。韓日トンネルは海底を安全に掘削し安定した運行が可能になるよう多くの投資が必要である。この投資費用を運営費用に転嫁すると、経営の見通しは厳しくならざるを得ない。ユーロトンネルは全額有利子の民間資金により建設されたが、その利子を払うことが到底不可能となり53%の債券を放棄することで正常化する道を選んだ。日本の青函トンネルは当初、政府の財政投融資の借入金で建設されたが、国鉄改革案により全額国の負担に代替することで公共事業に転換された。またポンプの交換など巨額の保守費は国家が3分の2を負担している。 現在建設中の整備新幹線1500kmは基本的には国家の公共事業として位置づけられている。国家が3分の2、地方が3分の1の公的資金により建設し、運営主体であるJRは受益範囲で使用料だけ貸付料として支払う上下分離方式を採択している。その構造のおかげで輸送量が小さい整備財源の新幹線も全て採算が取れるようになり建設されている。韓日トンネルも韓日両国の公共事業として、必要に応じて維持管理も政府が保証することで経営の安定を図る必要がある。そしてインフラ建設と保有は公的主体が担当し、運営は民間が担う上下分離方式の導入が効果的である。 対馬と韓国の間の大韓海峡(対馬海峡西水道)は、韓日トンネルの中でも技術的に最も注意しなければならない区間である。その深さは160mから230m程度とみている。この地域は韓日両国の国境を通過するため、精密で広範囲の調査がなされていない。したがって正確な海底地形調査を実施し、可能な限り浅く、地質が良好な路線を探す必要があり、両国の共同プロジェクトとして進めることが重要である。これまで日本側では長い期間をかけて対馬から韓国に至る3種の路線が並列的に提案されたが、実行段階では一つに絞る必要があり、現在、このことが最大の課題である。このような目的を達成するため、今、韓日両国が共同で調査をしなければならない。海底地形、地質、水深など必要なデータを取得し、共同で最適路線を選定することが必要である。 東アジア地域は今後、飛躍的な発展が期待されている。韓日トンネルは、物流を基盤に東アジアの経済共同体を実現する具体的なプロジェクトとして大きな可能性を持っている。遠からず北韓(北朝鮮)や中国も参加することで、東アジア共存共栄時代が到来することを切実に願っている。韓日トンネルは今後、シベリア鉄道やシルクロードにつながることでヨーロッパに行く道を拓く可能性も持っている。海路を経由するより、陸路により距離や時間、費用を減らせる路線が開かれることで、アジアとヨーロッパなど全世界をつなぐ「平和のトンネル(Peace Tunnel)」としての一翼を担うものと期待されるのである。 国民の過半数が賛成する合意を導かねばならない 中国のシージンピン(習近平)主席が進める一帯一路(内陸と海上のシルクロード経済ベルト)は、中国の西側方面を志向している。しかしながら北韓(北朝鮮)と韓国、日本がある東側方面を志向することも重要である。そうなれば一帯一路は大洋州や米国を含めた巨大な経済圏に連結される。東側に向かう経路の核心が日本と韓国を結ぶ韓日トンネルである。日韓トンネル研究会はその実現のため1983年の設立以来36年間研究を継続してきた。 北京~東京間3483kmを表定速度300km/hの列車が11時間余りで走行可能になり、陸路4時間の交通圏が大きく拡大する日が到来するとみられる。現在はフランスのTGVが表定速度199.8km/hで世界最大である。 国家間の海底トンネルの成功事例としては1994年に開通した英仏海底トンネル、別名ユーロトンネルが挙げられる。ユーロトンネルは人と車、貨物など3種類の列車で効率的に分担し、大量輸送を実現した。今後、建設される韓日トンネルの安定的な運用には、日本の次世代新幹線ALFA-Xや中国で運用中のCR400復興号などの鉄道技術の錬磨が必要である。 日本の新幹線が、1964年の開業以来50年間に乗客累積50億名を超えながらも事故による死亡者がただの一名も発生しないのは、▲確認車による毎日の点検、▲ドクターイエロー(新幹線電気軌道総合試験車)などによる線路および架線の定期点検、▲乗務員の通報体制、▲雪対策、▲保守時期、▲世代交代作戦、▲地震対策、▲テロ対策、▲集荷物検査AAIなどの活用、▲補充バラストとマルチプルタイダンパー、▲保守基地配置 など12個の項目からなる徹底した安全点検の結果であった。 韓日トンネルを実現するために必須な3つのポイントがある。第一は、掘削と施工方法、トンネルの維持管理などに関する基本的な技術の確立である。第二は、費用対効果で表す経済的な根拠と10兆円と仮想している建設費の確保である。第三は、国会の同意である。それには国民の過半数が韓日トンネルの建設に賛同する国民的合意が必要である。 (訳責:特定非営利活動法人日韓トンネル研究会事務局) |
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