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【資料名】 国際ハイウェイが日韓トンネルで浮上:CNR(CONSTRUCTION NEWS REVIEW) ,1994年No.5, PP.42-46 , 1994.9.15. 

特集:“国際ハイウェイ”が“日韓トンネル”で浮上

 英国とフランスを結ぶユーロトンネルの開通で、大陸を結ぶ国際ハイウェイ構想が具体化している。我が国と日本の間にも、海底トンネル建設の論議が進行中である。資金力と技術力を背景に積極性を見せている日本、そして我が国の、日韓トンネル研究の現況を探る。

国際ハイウェイ「日韓トンネル」の活性化


 今世紀最大の土木工事、と銘打たれた英仏間海底トンネルが去る5月6日に開通した。それにより、これまで航空便や船舶だけでドーバー海峡を渡ってきた旅行者は、新しく迅速な交通手段を利用できるようになった。
 7年間の長い工事の末、姿を現したこの歴史的な海底トンネルは、徹底した試験と実験運行を経てきた。今年の後半期には、両国間に運行されるユーロトンネル社の旅客サービス、英国の国有鉄道およびフランスの国有鉄道SNCFの貨物サービスなどを本格的に開始する。
 ユーロトンネル社は、英仏共同出資による建設企業体であるTMLから、55年間のチャンネルトンネル(訳注:英仏間海底トンネルのこと)の利権の所有主および運営者として選定され、2052年まで“シャトル”と呼ばれる観光客・貨物用の往復列車と、パリ~ロンドンとロンドン~ブリュッセル路線を往来する超高速列車“ユーロスター”などを運行することになった。
 英仏チャンネルトンネルの完工は、それらの地理的距離を飛躍的に短縮したところに、その一次的な意味があるが、それ以上に、政治的、経済的影響が莫大であろうというところに更なる関心を集めている。

日本:大陸進出のため積極的
 英国とヨーロッパ大陸を結ぶユーロトンネルの開通に最も関心を持っているところ、それはまさにアジア地域である。特に統一教会の文鮮明は、日本を通って、日本列島とアジア大陸を結ぶ国際ハイウェイ構想を進めている。日本の九州地域と韓半島の間の大韓海峡(訳注:対馬海峡)を、壱岐、対馬を経由するトンネルでつないで、アジア大陸を結ぶというものだ。
 この日韓トンネルプロジェクトの構想が、公式の席上で論議され始めたのは、81年11月、ソウルで開催された“第10回科学の統一に関する国際会議”で、国際ハイウェイの建設が提案されてからである。そのとき提示された国際ハイウェイ構想は、日本から我が国を経て中国に至るアジアハイウェイを建設する構想で、そこで、日韓間の海底トンネルが論議された。
 国際ハイウェイプロジェクトとは、ユーラシア大陸の東西を結び、それを更にアフリカ大陸や南北アメリカ大陸まで延長し、全世界を一つの交通体系で結ぶ構想である。国際ハイウェイの建設で、世界の全ての国を結ぶことにより、人的、物的、そして情報の流れを円滑にし、地域間の経済活動と技術の平準化を促進するというものである。その一つとしてアジア地域では、東京~ソウル~平壌~北京を結ぶアジアハイウェイが提案された。
 日本はすでに80年代に、海底部分が38Kmに達する青函トンネルと、本州と四国を結ぶ連絡橋を作った経験を持っている。それに、前述した技術力と世界第1の経済力を土台にして、日韓トンネルの開発に自信を持っている。
 現在、釜山と福岡間は、フエリーで16時間、ジェットフェリーで2時間30分かかる。日韓トンネルが掘られた暁には、自動車で3時間30分、新幹線で1時間20分になる。時間が短縮されるのはもちろんのこと、天候の影響を受けなくなり、日韓両国間の交流が更に活発になるのである。
 ドーバー海峡を渡るのに、一般のフェリーで約2時間30分、空気浮上快速船であるホバークラフトで1時間50分かかっていたが、チャンネルトンネルの開通後にはシャトルを利用して、トンネル通過に35分、乗降車時間まで含めても1時間もあれば十分だと言える。
 15分間隔で発車する予定のシャトルは、1度に180台の車両を輸送する能力をもっている。自動車での旅行者や、貨物トラックの運転者は、車内に座ったまま列車に乗ってトンネルを通過することになる。そしてターミナルにつながるフランスや英国の高速道路にそのまま入り、目的地へと向かえるようになっている。
 日本は、82年4月に民間団体として“国際ハイウェイ建設事業団”を設立し、83年5月に“日韓トンネル研究会”を発足させ、これまで10年間余り、調査活動を繰り広げてきた。この団体以外にも“財団法人亜細亜技術協力会・日韓トンネル研究専門委員会”がある。
 国際ハイウェイ建設事業団は、日韓トンネルに関連したプロジェクトを、先頭にたって推進し総括する民間団体として、プロジェクトに関する調査・研究開発、設計・施工および管理などの業務を、その基本的な事業としている。また、この事業団の諮問機関である“日韓トンネル研究会”に運営資金を支援しており、トンネルの現場調査の業務を遂行している。
 日韓トンネル研究会は、法人会員が200社を越え、個人会員も約1000名に達する。役員も180名に達し、九州地域の地元自治体と地方議会の議員はもちろん、中央の衆参両院の議員の積極的な後押しと賛助を得ている。研究会は、海底トンネルプロジェクトを国家プロジェクトに引き上げようと努力している。

両国の地域開発計画と密接な関連
 我が国では、86年10月、国際ハイウェイ構想に関心を持っ地質学を専攻する教授が集まり、“韓国国際ハイウェイ研究会(会長:尹世元)”を設立し、日本側の研究会と交流を開始し、88年10月から12月に掛けて、巨済島での陸上ボーリングによる地質調査を日韓合同で実施した。
 91年には、建設エンジニアリングに関連した産学研機関の重鎮や土木・土質の専門家が“日韓トンネル研究会”の招請を受け、東京支部と懇親会を開いた。海底トンネルの建設に対して日本が積極的に活動を展開している。その日本側の調査研究の成果と国際ハイウェイ構想に対応するうえで、このトンネルプロジェクトに関連した技術情報の入手と研究活動を繰り広げることが必要である。それで、我が国でも93年3月に、道路、トンネル施工管理、地質学の専門家によって構成される“韓日トンネル技術研究会(会長:成百詮)”が発足するに至った。
 研究会は、これまで日本で開催された国際シンポジウムに参加し、我が国の中長期交通網構想とその課題などについて発表し、絶え間なく技術交流を続けながら、我が方としての対応案の研究に努力している。
 社会間接資本施設の拡充に熱心な中国も、日本側の技術と資金の支援のもとに、国際ハイウェイ建設に関心を寄せている。日本の国際ハイウェイ建設事業団側で88年に調査し作成した“華北横断高速道路の経済性検討”に刺激を受け、89年4月に“京丹国際高速公路計画準備委員会”が設立された。さらに、日本側の技術支援で、北京と丹東間の約850Kmの高速道路に関する、1次、2次の予備調査を経て、93年7月から事業の妥当性調査を開始し、現在も調査作業を進めている。
 中国側では、現在進めている高速道路を、国際ハイウェイと結ぶ計画構想を進めている。日本では、中国で建設しようとしている高速道路の規格を、国際ハイウェイの規格に合わせようとしている。
 日本は、日韓トンネルの実現に積極的で、82年から陸上と海域で地質調査と環境調査を開始した。また、予定ルートの概略的な地質調査のため、86年から、九州地方のトンネル入口予定地に於て、調査のための掘削を開始し、94年1月現在で410mまで進んでいる。
 日本のトンネル研究会では、この日韓トンネル計画について、土木技術的な側面から調査活動を繰り広げてきた。しかしながら、これらの調査と技術的な検討は、プロジェクト自体が世界的規模のものであり、必要な諸般の条件を把握するには資料が足りないのが実情である。また、日韓両国の国境を越えるという問題がある。国際ハイウェイ構想は、政治・経済的な問題がまず解決されなければならないプロジェクトだと言える。
 今はまだ、机上での研究段階から脱してはいないが、研究内容はルート選定、交通需要の予測、トンネルの断面構造、トンネル工法、沈埋工法、水中トンネル工法、人工島、道路換気、防災設備、橋梁案、有料道路制、リニアモーターカー、注入工法、臨港計画など、全ての技術的な面を網羅している。
 日韓トンネルは、トンネルの長さが208Km(巨済島~九州)で、そのうち海底部分は145Km、陸上部分が63Kmである。
 ユーロトンネルと同様に、本トンネルとサービストンネルとで構成されている。本トンネルの断面の直径は13mで、チャンネルトンネルの2倍を越えている。参考までに、去る87年11月に掘削を開始し、60カ月の間、掘削作業を続けたユーロトンネルの長さは50.5Kmで、そのうち海底部分が37Kmである。中央のサービストンネルの内径は4.8m、両側の2つの運行用トンネルの内径は7.6mで、総延長151.5kmのトンネル工事が行なわれた。
 ユーロトンネルの工事は12カ所で始まったが、掘削にふさわしい地層に沿って、垂直、水平に曲線を描くと同時に、高速鉄道の輸送に必要な厳格な誤差許容度と、目標上の合流点と分岐点を正確に守らねばならなかった。
 1万3千名の人力が投入されたユーロトンネル工事は、トンネルの長さに比べて、最短の期間でトンネルを掘る世界記録を打ち立てた。この工事に投入された建設費用は合計150億ドル(約12兆ウォン)である。これは設計当初の推算額を2倍近く超過した規模で、開通式も当初の計画より1年以上遅れた。日韓トンネルは、規模の面でもユーロトンネルの4倍に達し、国際ハイウェイプロジェクトの中で最も難工事が予想されるプロジェクトである。

ユーロトンネルの起源と影響
 ユーロトンネルは、尖端工法、膨大な予算と人力をなどが投入され、2000年代に向けての展望の中から生み出された。しかし、英仏海峡を結ぶ海底トンネルの最初の発想は200年前に遡る。
 汽車が発明される以前の1802年、フランスで馬車に乗って海峡を渡る最初の海底トンネル構想が登場した。海面上に突き出した煙突、ろうそくの光で照らされたトンネルなど、単純な原理で考えられた構造ではあったが、結局、今日、世界最大規模の海底トンネルの土台になった。当時、フランスを支配していたナポレオン1世も、この案に大きな関心を見せたが進捗には至らなかった。
 それ以後、19世紀になって、いろいろな革新的な技術が、しだいにこの海底トンネルのアイディアを具体化させてきた。フランスの Thomade Gamond と F.E Beaumont らは、初期の段階で、この構想を科学的・工学的に実現可能にする作業に没頭した。その反面、政治的な側面から眺めると、果たして英国とヨーロッパ大陸間の固定的な連結トンネルが望ましいのだろうか、という果てのない論争が巻き起こった。
 20世紀にも続けられた論争の中で、技術者らは海底トンネルの工事を実際に試みてみようと、いろいろな掘削機の性能を応用してみたりもした。このような努力は、1981年ついに結実を見るに至り、英国のサッチャー首相とフランスのミッテラン大統領のロンドン頂上会談の末、ユーロトンネルの本格的な研究と作業に着手することに合意したと発表された。そしてそれ以後、さらに12年が経った今日、200年近く続いた巨大な夢が、遂に実現された。
 ユーロトンネルの開通に関係した専門家は、まず政治的な側面で、英国国民の間に少なからず変化が招来されるものと予想している。彼らがトンネルの存在によって、島国の国民としての孤立感と排他性を捨てて、ヨーロッパ統合に、より積極的な姿勢を見せるのではなかろうかというものだ。一部の専門家は、更に踏み込んで、英国民の伝統的な親アメリカ主義が、親ヨーロッパへと代わる可能性まで指摘している。
 さらに積極的なのは経済的影響で、その一部はトンネル工事の途中から多様な形態で現実のものになってきた。たとえば、フランスのカレーと英国のケント地域の住民たちは、英仏海底トンネルが完成した場合、この2つの都市を結ぶ地域が、北ヨーロッパと南ヨーロッパを結ぶ、新たな経済中心地に浮上するものと判断し、大規模物流センターの建設などを進めてきた。
 また最近まで年間2500万名の乗客と、450万台の車両を運送し収入を挙げてきた海運業界は、ユーロトンネル側が乗客の40%、貨物の26%を奪うことになろうと壮語するのに刺激されて大型船舶を建造し、シャトル式の船舶の運行などの対抗措置に力を入れている。

調査研究活動の活性化が必要
 日韓トンネルのルートは、3つの案が論議されている。ルート選定は、我が国の釜山か巨済島のどちらかと、日本の九州の北部との最短距離となるものである。路線上に位置する壱岐島と対馬を経由するルートが最も有力であるが、地理的な条件と地質的な条件を考慮して研究中である。
 我が方のトンネルの終点地域である巨済島一帯は、これまでの調査の結果、トンネルの設計上これといった問題がなく、この地域を利用するのが有利であるとされた。しかし、対馬と巨済島の間の地層は、日韓トンネルを検討する上で、地質的に最も問題がある地域である。この海域の中央部には新期堆積層が分布しており、さらにその下1000m付近まで、弾性波速度1900m/sec 程度の未固結に近い軟弱層が分布している。釜山の付近にも海域に巨大な梁山断層があり、平面線形を設計する上で注意を要する。
 トンネルを運用するに当たって、高速道路は換気および防災面で問題があり、現在のところは鉄道が最も有利だと見ている。従って、高速鉄道に車両を搭載するカートレイン方式での計画を進めている。カートレインはチャンネルトンネルでも適用されており、青函トンネルでも検討された。しかし、青函トンネルの5倍にもなる日韓トンネルでは、速度の問題から、現在開発中の磁気浮上式のリニアモーターカーを想定している。
 トンネル運用の基本的な方式は、リニアモーターカーを台車にして、そこに貨物を載せたトラック、トレーラー、あるいは乗客を搭乗させたままの新幹線を搭載できる方式と、新幹線型カートレインの、2種類の方式を構想している。
 日韓トンネルのいずれの計画案も、それぞれ膨大な課題を抱えている。海底地質の状態を始めとする、各種の自然条件の多くの部分が不透明である。また、全世界的にも、このプロジェクトにそのまま適用できる規模の施工技術の事例もない時点で、現在検討されている構想案の中で選定するに値するものがないからである。
 我が国と対馬との間の海底地質は、弾性波速度1900m/sec 程度の固結度が低い地層が、深さ1000m付近まで広がっており、このルートを選択すると、トンネルを深さ1000m以上まで下げねばならない。
 深さ1000m以上にトンネルを掘ることについては、技術上では十分に掘削が可能だと見ている。
 日韓トンネルは、施工の距離やその深度などから難工事が予想される。それで、工期の短縮のための方法が研究されている。工期の短縮のためには、先進作業技術上の掘削速度の向上が必須であり、機械掘削工法を広範囲に導入する研究が必要である。
 20年から30年とみられる工期を短縮するため、検討されているのが人工島の構築である。海底部の中間に人工島を造れば、海底トンネルの工区分割によって、トンネルの一方向の掘進延長距離が短縮され、トンネルの完成がそれだけ早まることになる。
 “技術的な問題点以外に最も重要なことは、国際的な政治、経済、法律の解決であり、日韓両国間の地域開発計画との密接な関連がある。単に土木技術的な観点から判断できる問題ではないが、長期的な視点から、我々も研究をしておかなければならない”という韓日トンネル技術研究会の李建培常務の言葉のとおり、日韓トンネルの建設が、今、最も急がれているプロジェクトというわけではないが、土木技術上の問題以外に、日韓両国の大局的な方向性の合意や調停が成立するために、今後、我が国でも調査研究だけではなく、必要な技術を確立する準備活動が、これまで以上に活性化されねばならないことだけは確かである。
 また政府の次元で国家プロジェクト化する作業が要求される。


訳責:特定非営利活動法人 日韓トンネル研究会 事務局

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